洛西の水田におけるシギ・チドリ類の秋の渡り時期

 京都・洛西(らくさい)の水田におけるシギ・チドリ類の秋(7〜10月)の渡り時期を2004〜2006年の3年間についてまとめました。

 19種のシギ・チドリ類が渡来

 2004〜2006年までの3年間の秋(7〜10月)に観察されたシギ・チドリ類は以下の19種です。
 ○ タマシギ
 ◎ コチドリ
 △ ムナグロ
 ◎ ケリ
 △ トウネン
 △ ヒバリシギ
 △ オジロトウネン
 △ エリマキシギ
 △ ツルシギ
 ○ アオアシシギ
 ○ クサシギ
 ○ タカブシギ
 ○ イソシギ
 △ オグロシギ
 ◎ タシギ
 ○ チュウジシギ
 ○ オオジシギ
 △ セイタカシギ
 △ ツバメチドリ
 ※ ◎:毎年数十羽が渡来 ○:毎年数羽が渡来 △:1〜数羽の渡来で、渡来しなかった年もある

 シギ・チドリ類は湛水休耕田で採餌

 渡来時期などを見る前にシギ・チドリ類の渡来する環境についてふれておきます。 多くのシギ・チドリ類の渡来する場所は水田のところどころにある湛水休耕田です。 ケリや、ほとんどのシギ類はそこを利用しています。コチドリやトウネンは特に干上がりかけの湛水休耕田を好みます。 ジシギ類のみ、くるぶしほどの草丈のあぜによくいます。
 減反政策などによる稲作の放棄によってできた湛水休耕田がシギ・チドリ類にとって好適な環境となっています。

 シギ・チドリ類の多くは8月下旬〜9月中旬に渡来

図 渡来種数の推移(2004-2006年)
渡来種数の推移(2004-2006年)

 2004〜2006年までの3年間において、7月を除く8〜10月までの各月を上・中・下旬に分け、それぞれの期間内に渡来したシギ・チドリ類の種数を、その期間の種数としてグラフに示しました。
 8月上・中旬はコチドリやケリは多数見られますが、その他のシギ・チドリ類はまれに見られるだけです。湛水休耕田は干上がることなく、シギ・チドリ類にとって好適な状態であることから、これらのシギ・チドリ類にとって渡来の時期としてはやや早いと言えそうです。
 シギ・チドリ類の渡来種数が最も多くなるのは、8月下旬〜9月中旬です。とりわけ9月上旬には、アオアシシギ、タカブシギ、クサシギ、タシギなど多くの種が見られます。10月以降も5種以下で推移していますが、これはケリ、クサシギ、イソシギ、タシギなど、一般に留鳥や冬鳥とされる種の確認によるものです。

 田んぼの水抜きにより9月下旬に渡去

 稲刈を前にして毎年9月20日前後に田んぼの水は抜かれます。それにともないシギ・チドリ類の利用している湛水休耕田もしだいに干上がります。湛水休耕田が干上がってしまうとシギ・チドリ類は利用しません。干上がるまでに降雨により湛水休耕田の水が維持されると滞在が延長されることがありますが、水の供給のなくなった湛水休耕田はすぐに干上がってしまいます。 したがってシギ・チドリ類の渡去時期というよりは、稲作の段階にあわせて人為的にやむなく移動させられると言えます。それぞれの種に渡去の時期がありそうですが、仮に湛水休耕田が維持された場合は種によっては滞在が長くなることが予想されます。
 ところでケリやタシギは10月以降も確認されることがあります。ケリは刈田などで数羽が見られたりしますが、11、12、1月には観察されないことがほとんどです。タシギは雨後に水溜りのできた刈田に入っており、このような湿った場所が出来るとどこからともなく飛来するようです。しかしそのような場所が干上がってしまうといつの間にか渡去しています。

 幼鳥が多く、成鳥は少ない

タカブシギの幼鳥
タカブシギの幼鳥

 シギ・チドリ類や小鳥類でも幼鳥の渡りは成鳥よりも遅れることが知られています。洛西ではケリを除き、成鳥が確認されることは少なく、幼鳥がほとんどです。この理由として2つ考えられます。ひとつは、主要な移動経路ではないという可能性です。はじめての渡りでコースに不慣れな幼鳥が、主要な移動経路を外れて訪れているのではないかと考えられます。もうひとつは、成鳥よりも飛翔能力の劣る幼鳥が、成鳥なら一気に通過してしまうところを休み休み移動しているという可能性です。いずれも推定ですが、それほど多くは飛来せず、しかもそのほとんどが幼鳥であることから、はじめの理由が妥当ではないかと考えています。

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07.03.22 Y