チョウゲンボウの餌(えさ) - アブラコウモリを食べる

 9月、京都・洛西(らくさい)でチョウゲンボウ Falco tinnunculus を観察しました。

 日の入後、数百頭のコウモリが舞う

 コウモリは日の入の頃になると飛びはじめます。 1頭あらわれたと思って見ていると、5分も経たないうちに数百頭にもなっています。 飛んでいるコウモリの種類は厳密には分かりませんが、洛西で市街地の周辺にいるコウモリと言えば、アブラコウモリです。

日の入をむかえ飛びはじめたコウモリ
日の入をむかえ飛びはじめたコウモリ

 コウモリの捕獲は「濡れ手で粟」あるいは「入れ食い」

 コウモリ数百頭が舞いはじめると、どこからともなくチョウゲンボウがあらわれます。 コウモリはひらひらと飛んでいますが、頻繁に急角度の方向転換を繰り返して飛んでおり、一見つかまえにくそうです。 チョウゲンボウはそのように飛ぶコウモリをいとも簡単につかまえます。

 チョウゲンボウは数百頭ものコウモリの中へ滑空して飛び込むと、飛んでいるコウモリに近づき、足でつかみます。 はじめの滑空でつかむか、それでつかめなければ、2、3回、方向転換するうちにコウモリをつかんでしまいます。 つかまえると、近くのお気に入りの食事場所へ戻って、1、2分で食べてしまい、すかさずコウモリをつかまえに飛び出します。

 日中、チョウゲンボウが停空飛翔ののち、スズメやヒバリなどの群れに飛び込んでも、捕獲に成功する場面にはなかなか出会えません。 それを考えますと、小鳥の捕獲に比べ、コウモリの捕獲はずいぶん容易なことのようです。 「濡れ手で粟」あるいは「入れ食い」という言葉がありますが、観察しているとまさにその通りです。

 15分ほどで、3、4頭を食べ終えると、さらに1頭をつかまえて、そのままどこかへ飛び去ります。 ねぐら入りと思われます。 「おみやげ」を携えて飛び去るところが心にくいですね。

 なお、ここには2羽が飛来していましたが、いずれも成鳥でした。

コウモリをつかんで飛ぶチョウゲンボウ コウモリを食べるチョウゲンボウ
コウモリをつかんで飛ぶチョウゲンボウ コウモリを食べるチョウゲンボウ


 コウモリ頼みはリスクを含む

 前述の通り、チョウゲンボウがコウモリを食べることのできる時間は限られます。 夕方のスーパーのタイムサービスではないですが、日の入直後のわずかな時間だけです。 さらにコウモリは雨の日は飛ばないことが知られていますので、日の入の時間が雨になると捕獲できません。 日の入頃に雨でないことを予想できれば、昼間は休んで夕方のコウモリの捕獲に頼ることもできそうですが、もし雨が降り、コウモリが捕獲できなければ一晩空腹で過ごさなければなりません。 またコウモリは冬眠しますので、冬の間、数か月はコウモリを食べることはできません。

 このようにチョウゲンボウとコウモリの活動時間の重なりは短く、しかも天候にも左右されますので、容易に捕獲できるにしましても、これを頼りにすることは大きな落とし穴があると言えそうです。 このためチョウゲンボウは日中、せっせと小鳥やネズミ、虫などをねらっていると思われます。 お腹を満たせなかった場合にコウモリをねらって出没するのでしょう。

 コウモリは食べ尽くされない

 いくつかの文献によりますと、アブラコウモリは1年に1回繁殖し、1頭のめすは、夏に2、3頭の子を産むことが知られています。 2頭の親から2、3頭の子ですから、無事に育てば個体数は1シーズンで2倍以上に増えます。

 チョウゲンボウ2羽がそれぞれ、1日にアブラコウモリ4頭を食べるとしますと2羽×4頭=8頭で、1日に8頭のアブラコウモリが減ります。 1か月を30日としますと、ひと月にすると、8頭×30日=240頭にもなります。 4か月強で1000頭を越える計算になります。

 しかし、前述の通り、チョウゲンボウとアブラコウモリの活動時間の重なりが短く不安定なため、チョウゲンボウはアブラコウモリにそれほど依存していないと思われます。 先の計算ほどは捕獲されず、アブラコウモリは食べ尽くされないのでしょう。

アブラコウモリ?が洛西の夜に舞う
アブラコウモリ?が洛西の夜に舞う


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09.10.09 N